AI・機械翻訳は、人力翻訳に比べてスピードやコストを大幅に削減できる便利なツールですが、正確性や自然さに欠ける場合があります。

本記事では、現在普及している機械翻訳の種類と、ビジネスで活用する際のメリットとデメリットを実例を交えて解説します

機械翻訳の種類

機械翻訳には大きく分けて3つの種類があります。

  • ルールベース型 :言語学的なルールや辞書を用いて変換する方式
  • 統計ベース型 :バイリンガルコーパスから統計分析を行って確率的に出力する方式
  • ニューラルネットワーク型 :ニューラルネットワークを用いて意味表現を学習して出力する方式

統計ベース型を進化させたのが、「ニューラルネットワーク型機械翻訳」という最新技術です。

ニューラルネットワークは、人間の脳のしくみを模倣した数理モデルの集合で機械学習やディープラーニングのアルゴリズムに使われる技術です。
このニューラルネットワークを翻訳に応用することで、複雑な表現にも精度の高い翻訳が可能になりました。

皆さんが利用しているGoogle翻訳DeepL翻訳はこのニューラルネットワーク型の機械翻訳にあたります。

機械翻訳のメリット

①コストを安く抑えることができる

機械翻訳は無料で提供しているサービスもあるため、コストを安く抑えることができます。
翻訳したい文章を貼りつけるだけで瞬時に結果が出るという手軽さも特徴です。

会社内での情報共有や内部文書の翻訳を必要とする場合、また、意味さえ理解できればいい大量の文書の翻訳を必要とする場合には機械翻訳を使用し、翻訳コストを削減できます。

②翻訳スピードが早い

機械翻訳は、ボタン一つで瞬時に翻訳することが可能です。

通常、人手翻訳は1日で平均3,000~3,500文字の翻訳が目安(和文英訳の場合)といわれていますが、機械翻訳を使えば数秒~数十秒で翻訳が可能です。大量の文章を入力しても高速で結果が返ってくるため、翻訳業務の効率化を図ることができます。

手軽に利用できる

翻訳会社に依頼する場合と違い、手間がかかりません。 インターネット上や、スマホを使って誰でも簡単に手軽に、無料で利用できることが特徴です。

④多くの言語を翻訳できる

たとえばGoogle翻訳は、日本語を含む100以上の言語でテキストや音声、写真などを翻訳可能です。これにより、人力翻訳では手が出ないような珍しい言語でも簡単に意味を知ることができます。

機械翻訳のデメリット

機械翻訳は、翻訳時のコストやスピードにメリットがある一方で、デメリットも存在します。

①正確性を保証できない(ニュアンスや文脈までは読み取れない)

近年、目覚ましい技術発展を遂げた機械翻訳ですが、人手翻訳よりも正確性を保証できないことがデメリットです。

基本的にビジネスで使う上では人間の目による最終チェックが必要不可欠になります。

機械翻訳は目の前のテキストだけを機械的に解釈します。
文章の意味を理解し、文脈やニュアンスを考慮しているわけではありません。 そのため、翻訳にニュアンスを必要とする小説や 脚本、映像翻訳、字幕などの文書などの翻訳は苦手としています。

ニュアンス含めて正確に翻訳するためには、原文の文化的背景や意図、文脈が重要になりますが、機械翻訳はそれらを理解することはできません。

たとえば下記のようなケースです。

実例

・原文テキスト

あの男は犯行時刻の午前3時ごろは家族と一緒だった。 私の推理ではあの男はだ。

・DeepLによる翻訳

That man was with his family around 3:00 a.m., the time of the crime. My guess is that guy is white.

上記の翻訳では「白」という言葉がそのまま「white」と訳されています。
文脈的にはこの場合の「白」は「無実」「潔白」を表しており、単に「white」とするのではなく、「 innocent」などの単語を使う方が適訳です。

このように機械翻訳は文脈を全く理解していません。「 あの男は犯行時刻の午前3時ごろは家族と一緒だった。 」という状況説明まであるにも関わらずです。

また、文脈を読めないと同時に意図も理解していないため、たとえば企業の商品やサービスを海外で売り出したいと思っても、機械翻訳を使用した場合、広告文としてはインパクトに欠ける訴求効果の弱い文章になりがちです。

訳抜けや不統一を起こすことがある

機械翻訳はその翻訳プロセス上 (1語ずつ訳さない) 、訳抜けが起きることがあります。
一文が長くなればなるほどその確率は高まるので注意が必要です。

機械翻訳で訳出された文は一見流暢であることから、その訳抜けに気づくことが難しいという面もあります。

また、一つの文章の中で、同じ単語に違う訳語が当てられることがあります。
前述の例文で「あの男」という言葉が「 That man」「That guy」とバラバラに訳されているのがいい例ですが、ソフトウェアのUI翻訳などではこういった不統一性が致命的な欠陥となります。

これらのミスを機械自身が自分で判断することはできないため、最終的には人間の目で確認する必要があります。

③セキュリティが十分ではない

無料版の機械翻訳を使用する場合は、セキュリティに関するデメリットがあります。

たとえば、翻訳データが機械翻訳提供元のサーバーに残ってしまったり、情報が流出してしまうリスクが懸念されます。

このようなリスクを回避するには、有料版を使用するなどして、データの暗号化、ウイルスチェックなどのセキュリティ対策が施されているか十分確認することが大切です。

④機械翻訳のブラックボックス問題

機械翻訳のみならず、AI全般の問題で「ブラックボックス問題」というものがあります。

AIのブラックボックス問題を簡単に言うと「AIがなぜ、どのようにその答えを出したのか、人間にはAIの思考回路が分からない」ということです。AIが持つこの性質は、自動運転や医療などの分野で、安全性や信頼性を確保するために大きな課題となっています。

AIのブラックボックス問題を解決するため、「説明可能なAI(Explainable AI:XAI)」と呼ばれるAIが下した判断の根拠を探る技術の開発が進められていますが、こちらはまだ発展途上の技術とされています。

まとめ

いかがでしたでしょうか?

AI・機械翻訳は、人間にはできないスピードや多言語性を持っています。
しかしながら、まだまだ正確性や情感を欠いていることがあります。
そのため、目的や対象に応じて、適切な方法を選択することが重要です。
また、翻訳の結果をそのまま信じるのではなく、必要に応じて人間のチェックや修正を行うことが大切です。